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11 その他の注意点

  1. ファイルの移動
    ファイルAを別のディレクトリBに移動した場合,ディレクトリBにアクセスできるドメ インが、移動後のAにアクセスできなくなることがあります。 ファイル移動時、「ファイルAに対するアクセス権限」を引き継ぐからで す(詳しくは後述)。このようなトラブルを解決するにはrestoreconコマ ンドを使う必要があります。
    * 具体例:ホームページのアップロードの場合
    Apacheが移動したファイルにアクセスできないことがあります
    # pwd
    /root/homepage/index.html
    # mv index.html /var/www/html
    # restorecon /var/www/html/index.html
    
    ここで、最後のrestoreconコマンドを忘れると、Apacheは/var/www以下にアクセ スできるように設定されてたとしても、index.htmlにアクセスできませ ん。 なぜなら、httpd_tは、/root/index.htmlにアクセスできませんが、こ れがファイル移動後も継承されているからです。 これを修正するにはrestoreconコマンドをする必要があります。 これでも問題が解決できない場合は特殊な場合です。audit2spdlで設定 を追加する必要があります。
  2. ファイルの新規作成
    新規作成されたファイルのアクセス権限は、ディレクトリから引き継が れます。次の例を見てください。以下の設定が存在したとします。
    domain foo_t;
    allow /foo/bar/** r,s;
    allow /foo/bar/test.txt r,w,s;
    
    foo_t は、/foo/bar以下に読み込み可能で、/foo/bar/test.txtに書き込み可能 です。
    /foo/bar/test.txtが、設定時に存在しなかったとし、設定後にtest.txtに新規 作成されたとします。 foo_tは、/foo/bar/test.txtに読み込みアクセスしかできません。/foo/barの アクセス権を引き継ぐからです。 この状況を直すには、
    restorecon -R /foo/bar
    
    をする必要があります。
  3. restoreconはなぜ必要?
    SELinuxは、ファイルなどのリソースを「タイプ」を呼ばれるラベルで識 別しています。 タイプの名前は、ファイル名の「」を「_」に置換した名前になってい ます。 mvコマンドをするときは、ラベルは保存されます。ファイルが新規作成 された時は、タイプはディレクトリのものを引き継ぎます。ファイルと タイプの関連付けをrestoreconコマンドを使うことで直す必要があるの です。

  4. cron ジョブ
    Cronジョブは、unconfinedなドメインで動きます。cron jobのアクセス 制御を行いたい場合は、system_crond_t.spを編集し、 allowpriv all;を削る必要があります。ただし、cronジョブを正しくア クセス制御するのは難しいことに注意が必要です。

  5. 消去、生成が繰り返されるファイル
    消去、生成が繰り返されるファイルについては、アクセス制御が思った ようにいかない場合があります。次の例を見てください。
    domain foo_t;
    allow /foo/bar/** r,s;
    allow /foo/bar/test.txt r,w,s;
    
    こう設定したとすると、test.txtが消去され、再度test.txtが生成された場合、 test.txtのアクセス権限は所属ディレクトリのものを継承しますから、 foo_tは、test.txtを読み込みしかできません。 restoreconコマンドでこれを直すことができるのですが、またtest.txtが消去、 生成されると、さらにrestoreconをしなければなりません。
    ディレクトリに対するアクセス権限と違うファイル、かつそれが消去、生成が繰 り返される場合は、アクセス制御がうまく設定できないことになります。
    これを解決するには以下のような方法があります。
    1. ファイル毎のアクセス制御をあきらめ、ディレクトリ単位のアクセス制 御をする
      つまり、 allow /foo/var/** r,s,w. のように、/foo/var全体に書き込み権限を与えてやれば問題ありません。 しかし、書き込み可能な範囲が広がってしまいます。
    2. allowtmpを利用
      このような、生成消去を繰り返すファイルのアクセス制御をするために、 SPDLにはallowtmpという設定要素が用意されています。今回の場合は次 のように設定することになります。
             allowtmp /foo/bar -name auto  r,w,s;
      
      allowtmpを使うことで、ファイルを「ラベル」を使って識別できるよう になります。 上の文にて、foo_tが、/foo/bar以下に作成したファイルは、 foo_foo_bar_tという名前のラベル(-name autoで命名がされます。 foo_t + /foo/bar = foo_foo_bar_t という規則です)が付与され、 そして、foo_tは、このラベルに対し、r,w,sアクセス可能、ということ になります。
      このようにすることによって、test.txtが/foo/barディレクトリに消去、 生成を繰り返されたとすると、test.txtには、foo_foo_bar_tという ラベルが常に付与されます。そして、このラベルを使ってSPDLから設定 することができます。
      例えば、他のドメインから、このラベルが付いたファイルにアクセスし たい場合は、
      	allow foo_foo_bar_t r;
      
      のように書きます。 ちなみに、allowtmpでは、SELinuxのファイルタイプ遷移が使われてます。
      デフォルトで用意されているポリシーでは、allowtmpは、/etc/mtabのア クセス制御や、/tmp,/var/tmp以下の一時ファイルのアクセス制御に使わ れています。
  6. /devディレクトリ以外のデバイスを使う
    デバイスファイルは、システムに対して致命的な影響を及ぼすため、 SPDLでも特に注意深く取り扱われています。 デフォルトで用意されているポリシでは、デバイスは、/devディレクト リに存在すると設定されています。つまり、/devディレクトリ以外のデ バイスに対して、allowでアクセス許可を設定しても、無視されてしまい ます。
    /devディレクトリ以外のデバイスを使いたい場合は、allowdev文を使う 必要があります。例えば、/var/chroot/dev/nullにアクセスしたい場合 は、/var/chroot/dev/nullにアクセスする設定を記述する前に、
    	allowdev -root /var/chroot/dev;
    
    のように、デバイスの格納されるディレクトリを指定しておhく必要があ ります。
  7. シンボリックリンクを含むファイル名
    シンボリックリンクを含むファイル名は無視されます。 例えば、
    allow /etc/init.d/httpd r;
    は無視されます。init.d は、 rc.d/init.dのシンボリックリンクだからです。
  8. ハードリンクの扱い
    Linuxシステムでは、ハードリンクを使うことで、ファイルの中身を複数 のファイル名で参照することができます。ハードリンクは、デフォルト ではほとんど使われていないため、以下の内容を気にする場面はほとん ど現れませんが、セキュリティ上知っておいたほうがいいでしょう。
    SPDLでは、ハードリンクは以下のルールで処理されます。
    ファイルの中身が複数のハードリンクで参照される場合、元々存在 したファイル名を記述する必要がある。それ以外のファイル名が指定さ れた場合は無視される。
    例えば、/etc/shadow と/var/chroot/etc/shadowがハードリンクされて いたとします。/etc/shadowが元々存在していたとすると、/etc/shadow (と/var/chroot/etc/shadow)の中身を見るためには、allow /etc/shadow rと記述する必要があります。allow /var/chroot/etc/shadow r と記述しても無視されます。
    ハードリンクが複数存在する場合、どのファイル名を「元々存在するファ イル名」とするかの基準が気になるところです。以下の基準で 「元々存在するファイル名」が判定されます。以下で出てくる例では、 /etc/shadow, /var/shadowがハードリンクされたファイルだと仮定しま す。
    1. 全ポリシ中で、一つのファイル名に対する設定しか書かれていな い場合、そのファイル名が「元々存在するファイル名」になりま す
      例: allow /etc/shadow rがある場所で記述されているとします。 そして、/var/shadowを使った設定はどこにも記述されていない とします。この場合は、/etc/shadowが、元々存在するファイル 名として取り扱われます。
    2. 複数のファイル名に対する設定が記述されていた場合、名前が一 番若いものが、「元々存在するファイル名」になります。
      例: allow /etc/shadow r,allow /var/shadow r; という設定が 記述されていたとします。この場合、「/etc/shadow」が、「元々 存在するファイル名」になります。なぜなら、/etc/shadowのほ うが名前が若いからです。
    3. ハードリンクされたファイル名を使った設定がどこにも記述され てないときは、所属ディレクトリ名を比較して、所属ディレクト リ名が最も大きいものが「元々存在するファイル名」となります。
      例: /etc/shadow, /var/shadowを使った設定がどこにも記述され ていない場合、/var/shadowが「元々あるファイル名」となりま す。なぜなら、/var/ $>$ /etcだからです。
    しかし、どのハードリンク名が「元々存在するファイル名」か分からな い場合は、全ての名前を使う手もあります。例えば、
    allow /etc/shadow r;
    allow /var/shadow r;
    
    のように記述した場合、どちらかの設定は無視されるだけで、無害です。
    以上のハードリンクの取り扱いは、パス名ベースのセキュリティの「抜 け穴」を防ぐために必要なものです。 この取り扱いがなかったとすると、 例えば、/etc/shadowのハードリンクが、なんらかの手で /var/www/html/shadowに作られてしまうと、Webサーバーから /etc/shadowの中身を覗けてしまうことになります。これを防ぐために、 ハードリンクされたファイルの中身にアクセスするには、「一つのファ イル名」しか使えないようにする必要があるわけです。パス名ベースの セキュリティの問題点については、
    http://securityblog.org/brindle/2006/04/19
    に詳しいです。



Yuichi Nakamura 2006-10-27